【労災・過労死・過労自死】【判例・裁判例】被害者が死亡した場合の年金給付との損益相殺的調整
Aは、ソフトウェアの開発等を業とするY社にシステムエンジニアとして雇用されていました。
Aは、長時間の時間外労働や配置転換に伴う業務内容の変化等の業務に起因する心理的負荷の蓄積により、精神障害(鬱病及び解離性とん走)を発症し、病的な心理状態の下で、平成18年9月、さいたま市に所在する自宅を出た後、無断欠勤をして京都市に赴き、鴨川の河川敷のベンチでウイスキー等を過度に摂取する行動に及び、翌日午前0時ころ、死亡してしまいました。
平成19年10月にAの死亡が業務上認定され、同月、Aの父X1は労働者災害補償保険法に基づき葬祭料を受給し、遺族補償年金を受給し始めました。また、Aの母X2は平成22年12月15日から同年金を受給し始めました。
このような状況で、X1、X2が、Yに対し、債務不履行ないし不法行為を理由に損害賠償を求める裁判を起こしたところ、①不法行為によって死亡した被害者の損害賠償請求権を取得した相続人が労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金の支給を受けるなどした場合に、上記の遺族補償年金との間で損益相殺的な調整を行うべき損害、②不法行為によって死亡した被害者の損害賠償請求権を取得した相続人が労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金の支給を受けるなどしたとして損益相殺的な調整をするに当たって、損害が塡補されたと評価すべき時期が問題になりました。
これについて、裁判所は、①被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、損害賠償額を算定するに当たり、上記の遺族補償年金につき、その塡補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきである、②被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが相当である旨判断しました。
(最高裁判所平成27年3月4日大法廷判決)
労災・過労死・過労自死に関して、 被害者が死亡した場合の年金給付との損益相殺的調整についての最高裁判所の判例を紹介させていただきました。
なお、労災・過労死・過労自死については、仙台の弁護士による労災・過労死・過労自死のご相談もご覧ください。