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【労災・過労死・過労自死】【判例・裁判例】会社の歓送迎会参加後の交通事故が業務上の事由による災害に当たるか

 
Aは、平成22年8月、B社の親会社であるC社からB社に出向し、B社のa工場等において、営業企画等の業務を担当していました。B社は、主に金型の表面にクロムメッキをする事業を営む会社であり、同年12月7日当時、Aを含めて7名の従業員が在籍していました。なお、B会社の代表取締役社長であるDは、C社の事業企画部長を兼任し、C社の本店所在地である名古屋市にいることが多いため、C社の生産部長であるEがその社長業務を代行していました。
B社は、平成22年8月にa工場の操業を開始して以来、C社の中国における子会社から中国人研修生を受け入れて2か月間の研修を行っていたところ、E部長の発案により、中国人研修生と従業員との親睦を図ることを目的とした歓送迎会を行っており、その費用は本件会社の福利厚生費から支払われていました。
E部長は、平成22年12月6日、中国人研修生3名の帰国の日が近づき、次に受け入れる中国人研修生2名が来日してきたことから、翌日に上記5名の歓送迎会を開催することを企画し、従業員全員に声を掛けたところ、A以外の従業員からは参加する旨の回答を得ました。そして、同月7日、E部長は、Aに対し、改めて歓送迎会への参加を打診したところ、Aから「12月8日提出期限で、D社長に提出すべき営業戦略資料を作成しなくてはいけないので、参加できない。」と言われましたが、「今日が最後だから、顔を出せるなら、出してくれないか。」と述べ、また、上記資料が完成していなければ、歓送迎会終了後にAとともに資料を作成する旨を伝えました。
歓送迎会は、同月7日午後6時30分頃から、Aの到着を待つことなく、他の従業員全員及び研修生らにより開始され、E部長の音頭で乾杯した後は、参加者が自由に話しながら飲食しており、このうち従業員1名と本件研修生らはアルコール飲料を飲みました。なお、E部長は、歓送迎会に先立ち、研修生らをその居住する同町内のアパートから歓送迎会会場までB社の所有する自動車で送っており、歓送迎会の終了後においても、E部長が研修生らをアパートまで当該自動車で送る予定でした。
Aは、歓送迎会が開始された後も、a工場において資料を作成していましたが、その作成作業を一時中断し、Aが使用していたB社の社用車を運転してB社の作業着のまま歓送迎会の会場に向かい、歓送迎会の終了予定時刻の30分前であった同日午後8時頃、会場に到着し、歓送迎会に参加しました。その際、Aは、B社の総務課長に対し、歓送迎会の終了後にa工場に戻って仕事をする旨を伝えたところ、同課長から「食うだけ食ったらすぐ帰れ。」と言われました。また、隣に座った中国人研修生からビールを勧められた際にはこれを断り、アルコール飲料は飲みませんでした。
歓送迎会は、同日午後9時過ぎに終了し、その飲食代金はB社の福利厚生費から支払われました。
Aは、同日午後9時過ぎ頃、研修生らをアパートまで送った上でa工場に戻るため、酩酊状態の研修生らを同乗させて社用車を運転し、アパートに向かいました。なお、a工場とアパートは、いずれも歓送迎会会場からは南の方向に所在し、a工場とアパートとの距離は約2kmでした。しかし、アパートに向かう途中、対向車線を進行中の大型貨物自動車と衝突する交通事故に遭い、同日午後9時50分頃、Aは頭部外傷により死亡してしまいました。
Aの妻であるXは、平成23年11月21日及び同月30日、労働基準監督署長に対し、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求しましたが、同署長は、同24年2月29日付けで、Aの死亡が業務上の事由によるものに当たらないことを理由に、これらを支給しない旨の決定をしました。
そのため、Xが、不支給決定の取消しを求める裁判を起こしたところ、労働者が、業務を一時中断して事業場外で行われた研修生の歓送迎会に途中から参加した後、当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に、研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡したことが、労働者災害補償保険法1条、12条の8第2項の業務上の事由による災害に当たるかが問題になりました。

これについて、裁判所は、労働者が、業務を一時中断して事業場外で行われた研修生の歓送迎会に途中から参加した後、当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に、研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡したことは、次の⑴~⑶など判示の事情の下においては、労働者災害補償保険法1条、12条の8第2項の業務上の事由による災害に当たる旨判断しました。
⑴ 上記労働者が業務を一時中断して上記歓送迎会に途中から参加した後に事業場に戻ることになったのは、上司から歓送迎会への参加を打診された際に、業務に係る資料の提出期限が翌日に迫っていることを理由に断ったにもかかわらず、歓送迎会に参加してほしい旨の強い意向を示されるなどしたためであった。
⑵ 上記歓送迎会は、事業主が事業との関連で親会社の中国における子会社から研修生を定期的に受け入れるに当たり、上司の発案により、研修生と従業員との親睦を図る目的で開催されてきたものであって、従業員及び研修生の全員が参加し、その費用が事業主の経費から支払われるなどしていた。
⑶ 上記労働者は、事業主の所有する自動車を運転して研修生をその住居まで送っていたところ、研修生を送ることは、歓送迎会の開催に当たり、上司により行われることが予定されていたものであり、その経路は、事業場に戻る経路から大きく逸脱するものではなかった。

(最高裁判所平成28年7月8日第二小法廷判決)

労災・過労死・過労自死に関して、 会社の歓送迎会参加後の交通事故が業務上の事由による災害に当たるかについての最高裁判所の判例を紹介させていただきました。

なお、労災・過労死・過労自死については、仙台の弁護士による労災・過労死・過労自死のご相談もご覧ください。