無効な遺言が死因贈与として有効となるか
遺言の裁判例
東京地方裁判所 昭和56年8月3日判決
事案の概要
Aの妻Bは、昭和44年ごろから認知症となり、昭和47年8月からは、入院して療養していましたが、昭和49年9月6日死亡しました。
Bの入院中、Aには同居の家族がなく、1人で生活していたため、昭和48年3月ごろ、A、Xそれぞれの友人の紹介で、XはAと交際するようになり、A宅へ行っては、炊事、洗濯などの世話をするようになりました。
昭和49年2月13日、Aが結腸癌のため病院に入院し手術を受けるに至り、Xは、自宅で営んでいた洋裁業を休んで、Aの付添看護に当たり、Aは約2か月間入院ののち退院しました。Xはその後も、Aとの交際を続け、昭和50年9月には、Bの一周忌が済んだ後、籍を入れるという話がAからなされるに至りました。
Aは、退院後、一応健康を回復して職場に復帰しましたが、再び病状が悪化し、昭和50年11月28日再度病院に入院するに至りました。
Xは、昭和50年10月末ごろから、Aの申出によりAとの交際を断つに至ったため、Aの再入院を知ったのは同年12月18日ころになってからでしたが、その直後から再び病院に泊まり込んでAの付添看護に当たるようになりました。
Aの病状は、再度の入院時から既に回復の望めぬ状態にあり、入院後日を追って病状が悪化し、昭和51年3月中旬ごろには、Aも自分の病状について、不安を持つようになり、Xが、それまで、身の回りの世話をしてくれたこと、入院後献身的に看護してくれたこと等に対し、深く感謝し、これにむくいるために、自分の死後Xにその遺産の一部を贈与したいと考えるようになり、担当医師の助言もあって、その趣旨を書面化するつもりになって、同月17日、午前10時ころ、Aは、Xに対し、もしものことがあったらお前が可愛想だといい、Xに便箋とボールペンを出してもらい、ベッドに寝たまま書面(以下「本件遺言書」といいます。)を作成し、Xに手渡しました。本件遺言書は、「YXと2人で半分づつな」と読みとれるだけのもので、Aの署名・押印はあっても日付はありませんでした。
Xは、同日午後、本件遺言書を同病院の外科看護婦長に預け、看護婦長は同病院使用の封筒に「重要」等と記載し、その封筒に本件遺言書を入れ、病院の記録室の手文庫の中に保管しておき、A死亡後これをXに手渡しました。
このような状況で、XがYに対して、本件遺言書を根拠に、Aの有していた現金の2分の1の支払い等を求める裁判を起こしました。
争点
無効な遺言が死因贈与として有効となるか
裁判所の判断の要旨
仮に本件遺言書が自筆証書遺言としての要式性を欠くものとして無効であるとしても、Aが、自分が死亡した場合には自分の財産の2分の1をXに贈与する意思を表示したものであり、Xはこの申し出を受け入れたものであると認めるのが相当である。
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