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退職金協定が失効した場合の退職金の支給基準

労働問題の判例
最高裁判所第一法廷 平成元年9月7日判決

事案の概要

Yは、香港に本店を置くいわゆる在日外国銀行であり、東京、大阪等に営業所(支店)を有していました。
Xは、昭和52年6月16日からA社の従業員としてYのB支店に出向し、メッセンジャーとして勤務していましたが、昭和53年12月7日、Yとの間に臨時従業員雇用契約を締結してYの従業員となり、その際、勤続年数としては、昭和52年6月16日からYに勤務していたものとしての取扱いを受けるものとされました。
Xは、昭和53年、Yの従業員を主な構成員とする外国銀行外国商社労働組合B支部第二分会(以下「外銀労」といいます。)に加入し、その組合員となりました。Yの日本国内の支店には外銀労のほかにY国内支店従業員組合(以下「従業員組合」といいます。)がありました。
前記臨時従業員雇用契約においては、Xの労働条件について、(1)XはYの就業規則のうち疾病に関する項目を除く部分の準用を受けるとともに、賃金等については、Yと外銀労との間で締結されその支給時において効力を有する諸協定の準用を受ける、(2)Xの雇用期間は昭和54年6月30日までとし、昭和58年6月30日までの間は1年ごとに雇用契約を更新することができる、(3)退職金は、昭和55年6月30日に退職(事務行員の場合の定年退職に相当)したものとみなして同日支払う、との約定がされていました。
Xは、昭和54年7月1日以降も1年ごとの契約更新により昭和58年6月30日まで勤務しました。
Yの就業規則には、退職金に関し、「支給時の退職金協定による。」と規定されていました。そして、Yと従業員組合との間で昭和50年6月26日に退職一時金及び退職年金の支給に関する退職金協定が締結されましたが、それによれば、(1)退職者には勤続年数に応じて、退職時における弁済額を除く基本給月額に一定の乗率を乗じた金額の退職一時金を支給する、(2)29歳以後に入行した者が定年で退職する場合には、退職時の基本給月額の2倍の額に勤務年数の30に対する割合を乗じた金額の退職年金を10年間支給する、(3)退職年金受給資格者が退職時に年金総額を一時金として受領することを希望する場合には、一定の乗率で換算した額の退職年金一時払金を支給する、旨が定められており、また、協定の有効期間については、昭和50年12月31日まで有効とし、期間満了の6か月以前にいずれか一方の当事者から改定の要求がなければ、その後1年間自動的に更新されると定められていました。
その後、Yと外銀労との間で昭和50年7月29日に右と同一内容の退職金協定(以下「本件退職金協定」という。)が締結され、Yは、昭和50年10月9日付けで、従業員組合との間で締結された右退職金協定に係る協定書の写しを添付した就業規則変更届をB中央労働基準監督署長に届け出ました。
YのB支店においては、Yと各労働組合との間でほとんど毎年のように全従業員につき画一的・統一的に賃金を改定し、退職金協定についても1年の有効期間を定めてこれを更新し又は改定するのを例としていました。Yは、昭和52年中、外銀労及び従業員組合に対し、退職金協定について、今後各年の定期昇給分は全額退職金額に反映させるが、ベースアップ分については、その一部だけが退職金額に反映するように内容を改めたい旨の提案を行い、1年ごとに更新されてきた本件退職金協定及び従業員組合との間の前記退職金協定は昭和53年12月31日限り失効しました。
Yは従業員組合との間で、昭和55年10月16日、賃金協定による基本給月額の代わりに、それより低額の別に定められた第二基本給月額を退職金計算の基礎とすることとして、昭和54年度退職金協定を締結しました。
Yは、Xの退職金について、本件退職金協定の失効時(昭和53年12月31日)における基本給月額を基礎とし、これに右協定を適用して計算される退職金の額を仮払として支払い、後日昭和55年度の退職金協定が成立したときに清算すべきであるとの基本的な考え方に立って、Xに対し退職金の仮払をしたところ、Xは、本件退職金協定の定める支給基準に基づき計算される退職金額76万4300円を請求する権利を有すると主張し、その支払を求めて裁判を起こしました。
なお、Yと従業員組合は、昭和59年7月25日、同じく第二基本給月額を退職金計算の基礎とすることとして、昭和55年度及び同56年度の各退職金協定を締結しました。Yは、昭和59年8月21日、右昭和55年度及び同56年度の各退職金協定に係る協定書の写しを添付した各就業規則変更届をB中央労働基準監督署長に届け出ました。Yと外銀労との間では、昭和54年度ないし同56年度の各退職金協定は締結されていませんでした。
YのB支店においては、古くから非組合員に対しても従業員組合との間で締結された賃金協定、退職金協定が適用されてきたので、昭和55年6月30日及び同59年7月25日のいずれの時点においても、非組合員も含めて従業員組合との間の退職金協定の適用を受ける常時使用される同種労働者数は、同支店の一般従業員総数の4分の3に達していました。

争点

退職金協定が有効期間の満了により失効した場合、退職金協定の失効後に退職し適用すべき協定のない労働者について、退職金協定の支給基準により退職金額を確定すべきか

裁判所の判断の要旨

就業規則に退職金は支給時の退職金協定によると定められている場合、右就業規則を補充するものとして所轄労働基準監督署長に届け出られた退職金協定の支給基準は、就業規則の一部となっているものであて、退職金協定が有効期間の満了により失効しても当然には効力を失わず、退職金協定の失効後に退職し適用すべき協定のない労働者については、右支給基準により退職金額を確定すべきである。

労働問題に関して、退職金協定が失効した場合の退職金の支給基準についての最高裁判所の判例を紹介させていただきました。

なお、労働問題については、仙台の法律事務所による労働問題のご相談もご覧ください。