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採用内定取消の有効性

労働問題の判例
最高裁判所第二小法廷 昭和54年7月20日判決

事案の概要

Y社は、綜合印刷を業とする株式会社です。
Y社は、昭和43年6月頃、A大学に対し、翌昭和44年3月卒業予定者でY社に入社を希望する者の推薦を依頼し、募集要領、会社の概要、入社後の労働条件を紹介する文書を送付して、卒業予定者に対して求人の募集をしました。
Xは、昭和40年4月A大学経済学部に入学し、昭和44年3月卒業予定の学生でしたが、大学の推薦を得てY社の求人募集に応じ、昭和43年7月2日に筆記試験及び適格検査を受け、同日身上調書を提出しました。Xは、試験に合格し、Y社の指示により同月5日に面接試験及び身体検査を受け、その結果、同月13日にY社から文書で採用内定の通知を受けました。
採用内定通知書には、誓約書用紙が同封されていたので、Xは、誓約書用紙に所要事項を記入し、Y社が指定した同月18日までにY社に送付しました。
誓約書の内容は、
 「この度御選考の結果、採用内定の御通知を受けましたことについては左記事項を確認の上誓約いたします
             記
 一、本年3月学校卒業の上は間違いなく入社致し自己の都合による取消しはいたしません
 二、左の場合は採用内定を取消されても何等異存ありません
 「1」 履歴書身上書等提出書類の記載事項に事実と相違した点があったとき
 「2」 過去に於て共産主義運動及び之に類する運動をし、又は関係した事実が判明したとき
 「3」 本年3月学校を卒業出来なかったとき
 「4」 入社迄に健康状態が選考日より低下し勤務に堪えないと貴社において認められたとき
 「5」 その他の事由によって入社後の勤務に不適当と認められたとき」
というものでした。
A大学では、就職について大学が推薦をするときは、2つの企業に制限し、かつ、そのうちいずれか一方に採用が内定したとき、直ちに未内定の他方の企業に対する推薦を取消し、学生にも先に内定した企業に就職するように指導を徹底するという、「二社制限、先決優先主義」をとっており、Y社においても、昭和44年度の募集に際し、少なくともA大学において先決優先の指導が行われていたことは知っていました。
Xは、Y社から前記採用内定通知を受けた後、大学にその旨報告するとともに、大学からの推薦を受けて求人募集に応募していたB社に対しても、大学を通じて応募を辞退する旨通知し、大学も推薦を取り消しました。その後、Y社は、昭和43年11月頃、Xに対し、会社の近況報告その他のパンフレットを送付するとともに、Xの近況報告書を提出するよう指示したので、Xは、近況報告書を作成してY社に送付しました。
ところが、Y社は、昭和44年2月12日、突如として、Xに対し、採用内定を取り消す旨通知しました。この取消通知書には取消の理由は示されていませんでした。
Xとしては、Y社から採用内定通知を受け、Y社に就職できるものと信じ、他企業への応募もしないまま過しており、採用内定取消通知も遅かった関係から、他の相当な企業への就職も事実上不可能となったので、大学を通じてY社と交渉しましたが、何らの成果も得られず、他に就職することもなく、同年3月A大学を卒業しました。
このような状況で、Xが、Y社に対し、従業員としての地位確認等を求める裁判を起こしました。

争点

1 採用内定により労働契約が成立したといえるか
2 採用内定取消の有効性

裁判所の判断の要旨

1 大学卒業予定者が、企業の求人募集に応募し、その入社試験に合格して採用内定の通知を受け、企業からの求めに応じて、大学卒業のうえは間違いなく入社する旨及び一定の取消事由があるときは採用内定を取り消されても異存がない旨を記載した誓約書を提出し、その後、企業から会社の近況報告その他のパンフレットの送付を受けたり、企業からの指示により近況報告書を送付したなどのことがあり、他方、企業において、採用内定通知のほかには労働契約締結のための特段の意思表示をすることを予定していなかったなど、判示の事実関係のもとにおいては、企業の求人募集に対する大学卒業予定者の応募は労働契約の申込であり、これに対する企業の採用内定通知は右申込に対する承諾であって、誓約書の提出とあいまって、これにより、大学卒業予定者と企業との間に、就労の始期を大学卒業の直後とし、それまでの間誓約書記載の採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したものと認めるのが相当である。
2 企業の留保解約権に基づく大学卒業予定者の採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる。
3 企業が、大学卒業予定者の採用にあたり、当初からその者がグルーミーな印象であるため従業員として不適格であると思いながら、これを打ち消す材料が出るかも知れないとしてその採用を内定し、その後になって、右不適格性を打ち消す材料が出なかったとして留保解約権に基づき採用内定を取り消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用にあたるものとして無効である。

労働問題に関して、採用内定取消の有効性についての最高裁判所の判例を紹介させていただきました。

なお、労働問題については、仙台の法律事務所による労働問題のご相談もご覧ください。