【賃金・残業代・退職金】【判例・裁判例】ロックアウトの正当性と期間中の賃金支払義務
Xらは、水門の製作、請負工事等を業とするY社の従業員であり、また、Y社の従業員で組織するA労働組合の組合員でした。A組合は、賃上げを要求してY社と団体交渉を重ねましたが妥結に至らなかったので、昭和34年5月19日、Y社に闘争宣言を通告して争議行為に入りました。
闘争宣言後、A組合は、工場や事務室等の窓ガラス、壁等にビラを貼りつけました。組合員は、事務所内でデモ行進を行い、Y社の業務を妨害しました。また、携帯拡声器2基を用いて、就業時間と休憩時間の区別なく、Y社や役員を誹謗する放送をしました。終業後は、20名前後の組合員が無届で会社構内に残留し、Y社の退去要求に応じませんでした。同月22日ころからは怠業状態が現れ、同月27日ころには、作業能率は平時の半分程度にまで低下しました。
その間、Y社は職制による巡視を強化しましたが、組合員はこれを妨害し、巡視中の工務部長が鉄板やハンマーを投げつけられ、同行の保安係員が押し倒されて打撲傷を負う事態も生じました。さらに、9名の組合員は出張命令に応じず、また、正副班長である組合員8名中7名が一斉に休暇をとったため、作業過程が麻痺し、正常な作業が不能に陥りました。
Y社は、組合の争議行為等により作業能率が著しく低下し、正常な業務の遂行が困難となったので、このままでは会社の経営にも危殆を招くおそれがあると考え、組合員にロックアウト(作業所閉鎖)を通告しました。ロックアウトは、35日間継続しました。
争議終了後、Xらは、Y社がロックアウトにより就労を拒否したことは不当であるとして、Y社に対して、ロックアウト期間中の賃金の支払を求める裁判を起こしたところ、ロックアウトの正当性及びロックアウト期間中における使用者の賃金支払義務の有無が問題になりました。
これについて、裁判所は、前者については、ロックアウトは、個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度、経過、組合側の争議行為の態様、それによって使用者側の受ける打撃の程度等に関する具体的諸事情に照らし、衡平の見地から見て労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当と認められる場合には、使用者の正当な争議行為として是認される旨判断し、後者については、ロックアウトをした使用者は、それが正当な争議行為として是認される場合には、その期間中における対象労働者に対する賃金支払義務を免れる旨判断しました。
(最高裁判所昭和50年4月25日第三小法廷判決)
賃金・残業代・退職金の問題に関して、ロックアウトの正当性と期間中の賃金支払義務についての最高裁判所の判例を紹介させていただきました。
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