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【労働問題】【判例・裁判例】正社員と定年後再雇用された嘱託社員との賃金の相違が労働契約法20条に違反するか

 
X1~X3は、Y社と無期労働契約を締結し、バラセメントタンク車の乗務員として勤務していましたが、満60歳で定年退職した後、Y社と有期労働契約を締結し、それ以降も嘱託社員としてバラ車の乗務員として勤務していました。
Y社と無期労働契約を締結しているバラ車等の乗務員(正社員)の賃金については、基本給、能率給、職務給、精勤手当、無事故手当、住宅手当、家族手当、役付手当、超勤手当、通勤手当、賞与、退職金を支給すると定められていました。
Y社は、定年退職後に再雇用される嘱託社員に適用される就業規則(嘱託社員規則)を定めており、それによれば嘱託社員の給与は原則として嘱託社員労働契約の定めによること、嘱託社員には賞与その他臨時給与および退職金を支給しないこと等とされていました。
Y社はXらの所属しているA労働組合との間で協議を行い、平成17年1月、定年退職者を再雇用する継続雇用制度を導入する旨の労使協定を締結しました。Y社が策定した当初の再雇用者採用条件では、契約期間を1年以内として、基本賃金、歩合給、無事故手当とされ、調整給の定めはありませんでした。A組合は、Y社に対し、定年退職者を定年退職前と同額の賃金で再雇用すること等を要求しましたが、Y社はこれに応じませんでした。
Y社は、平成24年3月以降、A組合との間で団体交渉を行い、定年退職者再雇用採用条件を順次改定し、平成26年4月1日付で改定された後の定年後再雇用者採用条件では、基本賃金、歩合給、無事故手当、調整給、通勤手当、時間外手当としました。しかし、嘱託社員には、無期契約労働者に支給される職務給、役付手当、精勤手当、住宅手当、家族手当はなく、賞与・退職金は支給しないとしていました。
そのため、X1~X3が、無期労働契約をY社と締結している正社員との間に、労働契約法20条に違反する不合理な労働条件の相違が存在すると主張して、Y社に対し、主位的に、正社員に関する就業規則等が適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、労働契約に基づき、正社員に関する就業規則等により支給されるべき賃金と実際に支払われた賃金との差額およびこれに対する遅延損害金の支払いを求め、予備的に、不法行為に基づき上記差額に相当する額の損害賠償金および遅延損害金を求める裁判を起こしたところ、 ①有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることが労働契約法20条にいう「その他の事情」にあたるか、②有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かについての判断方法、③無期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給する一方で定年退職後に再雇用された有期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるかが問題になりました。

これについて、裁判所は、①有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たる、②有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきである、③乗務員である無期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給する一方で、定年退職後に再雇用された乗務員である有期契約労働者に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は、両者の職務の内容並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲が同一である場合であっても、次の⑴~⑹など判示の事情の下においては、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらない旨それぞれ判断しました。
⑴ 有期契約労働者に支給される基本賃金の額は、当該有期契約労働者の定年退職時における基本給の額を上回っている。
⑵ 有期契約労働者に支給される歩合給及び無期契約労働者に支給される能率給の額は、いずれもその乗務するバラセメントタンク車の種類に応じた係数を月稼働額に乗ずる方法によって計算するものとされ、歩合給に係る係数は、能率給に係る係数の約2倍から約3倍に設定されている。
⑶ 団体交渉を経て、有期契約労働者の基本賃金が増額され、歩合給に係る係数の一部が有期契約労働者に有利に変更されている。
⑷ 有期契約労働者の賃金体系は、乗務するバラセメントタンク車の種類に応じて額が定められる職務給を支給しない代わりに、前記⑴により収入の安定に配慮するとともに、前記⑵により労務の成果が賃金に反映されやすくなるように工夫されたものである。
⑸ 有期契約労働者に支給された基本賃金及び歩合給を合計した金額並びに当該有期契約労働者の賃金に関する労働条件が無期契約労働者と同じであるとした場合に支払われることとなる基本給、能率給及び職務給を合計した金額を計算すると、前者の金額は後者の金額より少ないが、その差は約2%から約12%にとどまる。
⑹ 有期契約労働者は、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる上、その報酬比例部分の支給が開始されるまでの間、調整給の支給を受けることができる。

(最高裁判所平成30年6月1日第二小法廷判決)

労働問題に関して、正社員と定年後再雇用された嘱託社員との賃金の相違が労働契約法20条に違反するかについての最高裁判所の判例を紹介させていただきました。

なお、労働問題については、仙台の弁護士による労働問題のご相談もご覧ください。