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【労働問題】【判例・裁判例】有期契約労働者と無期契約労働者の間の賃金格差が労働契約法20条に違反するか

 
Y社は、一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社であり、Xは、平成20年10月6日頃、Y社のD支店にトラックの配車ドライバーとして雇用され、契約期間を6か月とする有期労働契約を締結し、更新してきました。Xの賃金は時給制で、通勤手当は月額3000円、「原則として昇給及び賞与の支給はない」が、「会社の業績及び勤務成績を考慮して、昇給し又は賞与を支給することがある」とされていました。
Y社と有期労働契約を締結している契約社員等に適用される嘱託、臨時従業員およびパートタイマーの就業規則は、基本給は時間給として職務内容等により個人ごとに定めること、交通機関を利用して通勤する者に対して所定の限度額の範囲内でその実費を支給すること、原則として昇給しないが会社の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあること、賞与および退職金は原則として支給しないこと等を定めていましたが、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当および家族手当に関する定めはありませんでした。
他方、正社員給与規程では、基本給は年齢給、勤続給および職能給で構成すること、乗務員が1か月間無事故で勤務したときは無事故手当として1万円を支給すること、特殊業務に携わる従業員に対して月額1万円から2万円までの範囲内で作業手当を支給すること、従業員の給食の補助として月額3500円の給食手当を支給すること、21歳以下の従業員に対しては月額5000円、22歳以上の従業員に対しては月額2万円の住宅手当を支給すること、乗務員が全営業日に出勤したときは皆勤手当として月額1万円を支給すること、常時一定の交通機関を利用しまたは自動車等を使用して通勤する従業員に対し、交通手段および通勤距離に応じて所定の通勤手当を支給すること、扶養家族を有する従業員に対して家族手当を支給すること、会社の業績に応じて賞与を支給すること等を定めていました。
正社員就業規則には、Y社は業務上必要がある場合は従業員の就業場所の変更を命ずることができる旨の定めがあり、正社員については出向を含む全国規模の広域異動の可能性がありますが、嘱託、臨時従業員およびパートタイマーの就業規則には配転または出向に関する定めはなく、契約社員については就業場所の変更や出向は予定されていませんでした。また、正社員については、公正に評価された職務遂行能力に見合う等級役職への格付けを通じて、従業員の適正な処遇と配置を行うとともに、教育訓練の実施による能力の開発と人材の育成、活用に資することを目的として、等級役職制度が設けられていましたが、契約社員についてはこのような制度は設けられていませんでした。
なお、Xが勤務しているD支店においては、正社員に対して月額1万円の作業手当が一律に支給されていました。また、正社員就業規則では、従業員が5年以上勤務した後に退職するときは退職金を支給する旨を定めていました。また、D支店におけるトラック運転手の業務の内容には、契約社員と正社員との間に相違はなく、当該業務に伴う責任の程度に相違があったとの事情はありませんでした。
このような状況で、Xが、無期労働契約をY社と締結している正社員とXとの間で、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与、定期昇給および退職金に相違があることは労契法20条に違反しているなどと主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、XがY社に対し、賃金等に関し、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、主位的に、労働契約に基づき、平成21年10月1日から27年11月30日までの間に正社員に支給された無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当および通勤手当と、同期間にXに支給されたこれらの手当との差額の支払いを求め、予備的に、不法行為に基づき、上記差額に相当する額の損害賠償を求める等の裁判を起こしたところ、①有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合における当該有期契約労働者の労働条件の帰すう、②労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」の意義、③労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」の意義、④無期契約労働者に対して皆勤手当を支給する一方で有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか、がそれぞれ問題になりました。

これについて、裁判所は、①有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が労働契約法20条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない、②労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう、③労働契約法20条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいう、④乗務員のうち無期契約労働者に対して皆勤手当を支給する一方で、有期契約労働者に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、次の(1)~(3)など判示の事情の下においては、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる、旨判断しました。
(1) 上記皆勤手当は、出勤する乗務員を確保する必要があることから、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものである。
(2) 乗務員については、有期契約労働者と無期契約労働者の職務の内容が異ならない。
(3) 就業規則等において、有期契約労働者は会社の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあるが、昇給しないことが原則であるとされている上、皆勤の事実を考慮して昇給が行われたとの事情もうかがわれない。

(最高裁判所平成30年6月1日第二小法廷判決)

労働問題に関して、有期契約労働者と無期契約労働者の間の賃金格差が労働契約法20条に違反するかについての最高裁判所の判例を紹介させていただきました。

なお、労働問題については、仙台の法律事務所による労働問題のご相談もご覧ください。