【労働問題】【判例・裁判例】就業規則の不利益変更
Y銀行の従前の就業規則では、「職員の停年は満55歳とする。但し、願出により引続き在職を必要と認めた者については3年間を限度として、定年後在職を命ずることがある。」と定められており、実際の運用をみると、男子行員の約93パーセントが定年後も在職し、その7、8割が58歳まで勤務していました。
Y銀行は、行員の約9割で組織する従業員組合との団体交渉を経て、昭和58年3月30日に60歳定年制導入に関する労働協約を締結し、その内容どおりに就業規則の定年条項、給与規定及び退職金規定を改正して、同年4月1日から60歳定年制を実施しました。60歳定年制導入に伴って、従前の本俸が基本本俸と加算本俸とに分割され、55歳以降は加算本俸分は支給されないこととなるなどとされたため、年間賃金が54歳時のそれの63ないし67パーセントになり、58歳までの間の賃金合計のみを比較すると、従前概ね実施されていた労働条件を前提に計算した場合よりも約940万円少なくなりました。
Y銀行の行員であったX(非組合員)は、昭和54年8月から部長補佐の職にあり、60歳定年制実施の約1年半後に55歳になり、60歳まで勤務して定年退職しましたが、就業規則の変更は、60歳定年制導入に伴って従前の定年後在職制度(実質58歳定年制)の下で支給されることとなっていた賃金等の額を減額するものであり、Xの既得の権利を侵害し、一方的に労働条件を不利益に変更するものであるから、Xに対してはその効力を生じないとして、Y銀行に対して賃金差額の支払等を求める裁判を起こしたところ、60歳定年制導入により不利益変更された就業規則の規定がXに適用されるかが問題になりました。
これについて、裁判所は、労働条件が実質的に不利益に変更されるとしても、その変更は、当時60歳定年制の実現が社会的にも強く要請されている一方、定年延長に伴う賃金水準等の見直しの必要性も高いという状況の中で、行員の約90パーセントで組織されている労働組合からの提案を受け、交渉、合意を経て労働協約を締結した上で行われたものであり、従前の55歳以降の労働条件は既得の権利とまではいえず、変更後の就業規則に基づく賃金水準は他行や社会一般の水準と比較してかなり高いなどの事情の下では、右就業規則の変更は、不利益緩和のための経過措置がなくても、合理的な内容のものであると認めることができないものでなく、右変更の1年半後に55歳を迎える男子行員に対しても効力を生じる旨判断しました。
(最高裁平成9年2月28日第二小法廷判決)
労働問題に関して、就業規則の不利益変更についての最高裁判所の判例を紹介させていただきました。
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