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【労働問題】【判例・裁判例】労働者派遣と偽装請負

 
Y社は、A(本件当時の商号はB)ほか1社の出資による会社であり、平成16年1月当時、その製造ラインでは、上記2社から出向してきたY社の従業員と、Y社から業務委託を受けたC社等に雇用されていた者とが作業に従事していました。
C社は、家庭用電気機械器具の製造業務の請負等を目的としており、同社が同14年4月1日以降にY社との間で締結していた業務委託基本契約によれば、Y社が生産1台につき定められた業務委託料をC社に支払い、C社がY社から設備、事務所等を賃借して、自社の従業員を作業に従事させるものとされていました。なお、Y社とC社との間に資本関係や人的関係があるとか、C社の取引先がY社に限られているとか、C社によるXの採用面接にY社の従業員が立ち会ったなどの事情は認められませんでした。
Xは、平成16年1月20日、C社との間で、契約期間を2か月(更新あり)、賃金を時給1350円、就業場所をY社茨木工場(以下「本件工場」といいます。)などとする雇用契約を締結しました。Xは、同日から、本件工場において、Y社の従業員の指示を受けて、プラズマディスプレイパネル(PDP)の製造業務のうちデバイス部門の封着工程に従事することになりました。XとC社との間の契約は、2か月ごとに更新され、Xは、同17年7月20日までC社から給与等を支給されました。
本件工場にはC社の正社員も常駐していましたが、封着工程においては、班長と呼ばれる工程管理者とこれを補佐する現場リーダーとはいずれもY社の従業員で、クリーンルームから送られてきたPDPの内部に放電ガスを封じ込め、これを次の排気工程へと送る作業を、Y社及びC社ほか1社の各従業員が混在して共同で行っていました。Xは、封着工程での作業についてY社の従業員から直接指示を受け、C社の正社員による指示は受けていませんでした。
Xは、休日出勤について、C社の正社員から指示を受けることもありましたが、Y社の従業員から直接指示を受けることもありました。また、Xらの休憩時間はY社の従業員が指示していました。
Xは、平成17年4月27日、その就業状態が労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」といいます。)等に違反しているとして、Y社に対し直接雇用を申し入れましたが、回答が得られず、同年5月11日、D組合に加入しました。D組合は、同月19日付け及び同月20日付け各書面により、XがY社を派遣先とする派遣労働者として1年を超えて製造ラインの業務に従事しており、Y社に労働者派遣法40条の4に基づく直接雇用の申込み義務が発生していると主張し、Y社に対し、Xへの直接雇用申込みを行うよう団体交渉を申し入れました。Y社は、当初、Xとの間には雇用関係がないので団体交渉には応じないという姿勢でしたが、同月24日、協議自体には応じることとし、その旨回答しました。
Xは、平成17年5月26日、大阪労働局に対し、本件工場における勤務実態は業務請負ではなく労働者派遣であり、職業安定法44条、労働者派遣法に違反する行為である旨申告しました。Y社は、同年6月1日、同局による調査を受け、同年7月4日、同局から、C社との業務委託契約は労働者派遣契約に該当し、労働者派遣法24条の2、26条違反の事実があると認定され、上記契約を解消して労働者派遣契約に切り替えるようにとの是正指導を受けました。このため、Y社は、封着工程を含むデバイス部門における請負契約を労働者派遣契約に切り替えることを柱とする改善計画を策定しました。これに伴い、C社が同月20日限りでデバイス部門から撤退する一方、Y社は、他社との間で労働者派遣契約を締結し、同月21日から派遣労働者を受け入れ、PDPの製造業務を続けることになりました。
Xは、C社の正社員から本件工場の別の部門に移るよう打診されましたが、Y社の直接雇用下でデバイス部門の作業を続けたいと考え、同月20日限りでC社を退職しました。
X及びD組合とY社との間の協議は平成17年6月7日に開始されました。D組合は、Y社がXを直接雇用することを申し入れました。Y社は、同年8月2日、Xとの雇用契約の条件として、契約期間を同月から同18年1月31日まで(契約更新はしない。ただし、同年3月31日を限度としての更新はあり得る。)、業務内容を「PDPパネル製造-リペア作業及び準備作業などの諸業務」と記載した労働条件通知書をX側に交付しました。Y社が雇用期間を限定した理由は、Y社が専属の従業員を直接雇用する体制になっておらず、遅くとも同年3月末までには生産体制を適法な請負による作業に切り替えることができると認識していたからで、D組合もY社の上記認識は承知していました。また、賃金は上記通知書では空欄でしたが、Y社側が口頭で時給1400円を提示したところ、D組合から、有期雇用としては安いので例えば1600円にならないかとの趣旨の発言がありました。
XとD組合とは、XがC社との契約関係を解消して収入のない状況であり、従前の交渉の経緯からもこのままではY社との雇用契約の締結が困難であると考えました。そこで、Xは、Y社に対し、代理人弁護士作成の内容証明郵便において、契約期間及び業務内容について異議をとどめて、当面は、上記通知書記載の業務に就業する旨の通知をした上で、Y社が準備した上記通知書と同旨の雇用契約書(ただし、賃金は時給1600円、雇用期間の始期は同17年8月22日とされていました。以下「本件契約書」といいます。)に署名押印し、同月19日、これをY社に交付しました。
Xは、平成17年8月22日、Y社に直接雇用された従業員として本件工場に出社し、同月23日から、本件工場内において、不良PDPのリペア作業を一人で担当しました。Y社は、同14年3月ころ以降、リペア作業を実施することはなくなっており、不良PDPは廃棄されていました。リペア作業では、ガラスの表面や電極端子間をしゃもじ等で擦る作業を行う過程で静電気が発生し、集じんしやすいため、Xの作業場は帯電防止用シートで囲まれていました。
D組合は、平成17年8月25日以降、書面により、Y社とXとの間の雇用契約を期間の定めのないものとし、Xの作業を従前従事していたデバイス部門の封着工程のものとすることを求めて団体交渉を申し入れていましたが、Y社は、同年12月28日、同18年1月31日をもって上記雇用契約が終了する旨を通告し、その翌日以降、Xの就業を拒否しました。なお、Y社は、同年2月以降、残っていたリペア作業について他の従業員に交代で5日間担当させてこれを終え、その後は上記作業を行っていません。
このような状況で、XがY社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めて裁判を起こしたところ、請負人と雇用契約を締結し注文者の工場に派遣されていた労働者が注文者から直接具体的な指揮命令を受けて作業に従事していたために、請負人と注文者の関係がいわゆる偽装請負に当たり、上記の派遣を違法な労働者派遣と解すべき場合に、注文者と当該労働者との間に雇用契約関係が黙示的に成立していたといえるかが問題になりました。

これについて、裁判所は、請負人と雇用契約を締結し注文者の工場に派遣されていた労働者が注文者から直接具体的な指揮命令を受けて作業に従事していたために、請負人と注文者の関係がいわゆる偽装請負に当たり、上記の派遣を「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」に違反する労働者派遣と解すべき場合において、(1)上記雇用契約は有効に存在していたこと、(2)注文者が請負人による当該労働者の採用に関与していたとは認められないこと、(3)当該労働者が請負人から支給を受けていた給与等の額を注文者が事実上決定していたといえるような事情はうかがわれないこと、(4)請負人が配置を含む当該労働者の具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったことなど判示の事情の下では、注文者と当該労働者との間に雇用契約関係が黙示的に成立していたとはいえない旨判断しました。

(最高裁判所平成21年12月18日第2小法廷判決)

労働問題に関して、労働者派遣と偽装請負についての最高裁判所の判例を紹介させていただきました。

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