【労働問題】【判例・裁判例】労働組合が組合員資格を喪失した者に対する賃金の支払を命ずる救済命令を求めることの可否
X社は、ダイヤモンド工具の製造販売を目的とする会社で、A組合B支部は、X社C工場の従業員をもって組織する労働組合です。
昭和49年の春闘において、B支部は、同年5月分賃金計算期間(4月21日~5月20日)内の所定労働日数19日のうち18日について、1日単位ごとのスト(全日スト)を継続して実施しました。そして、同期間の最終日である5月20日は、2時間の時限スト以外の時間は就労することとしましたが、スト終結の連絡がつかなかったり、自己都合等により25名の組合員がその日も全日就労しませんでした。
X社は、前記25名以外の組合員へは従来の労使慣行であるストライキ1日につき基本給月額の25分の1の割合による賃金カットを行い、前記25名については5月分賃金計算期間中まったく就労しなかったとの理由で基本給の全額をカットした。
B支部とその上部団体Dは、この賃金全額カットを不当労働行為として、Y地方労働委員会に救済を申し立てました。
Y地労委は、X社の措置を不当労働行為であると認定し、前記措置により余分にカットされた賃金額と年5分の加算金の遡及払い、ポスト・ノーティスなどを内容とする救済命令を発しました。
これに対し、X社が救済命令の取消を求める裁判を起こしたところ、地裁は、5月20日の不就労者に対する基本給全額カットは労働組合法7条1号、3号に該当する不当労働行為であると認定しましたが、特段の事情のない限り、組合員資格喪失者に対し賃金支払を命ずることは許されないとして、25名のうち地労委命令時までに退職等によってA組合組合員の資格を喪失した11名についてのY地労委命令を取り消しました。そのため、労働組合が組合員資格を喪失した者に対する賃金の支払を命ずる救済命令を求めることができるかが問題になりました。
これについて、裁判所は、 組合員に対する賃金カットが労働組合法7条1号及び3号所定の不当労働行為に当たる場合に、当該組合員が、賃金カット後に組合員資格を喪失しても、積極的に、権利を放棄するか又は労働組合の救済命令申立てを通じて権利の回復を図る意思のないことを表明しない限り、労働組合は、当該組合員に対する賃金の支払を命ずる救済命令を求めることができる旨判断しました。
(最高裁判所昭和61年6月10日第三小法廷判決)
労働問題に関して、労働組合が組合員資格を喪失した者に対する賃金の支払を命ずる救済命令を求めることの可否についての最高裁判所の判例を紹介させていただきました。
なお、労働問題については、仙台の弁護士による労働問題のご相談もご覧ください。