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【労働問題】【判例・裁判例】労働条件の不利益変更

 
A信用組合は、平成13年頃、経営破綻を回避するために、Y信用組合に対して合併を申し入れました。そして、平成14年6月29日、両者の間で本件合併を目的とする合併契約が締結され、同契約において、①本件合併によりA信用組合は解散し、Y信用組合が存続すること、②本件合併時にA信用組合に在職する職員に係る労働契約上の地位は、Y信用組合が承継すること、③上記の職員に係る退職金は、本件合併の際には支給せず、合併後に退職する際に、合併の前後の勤続年数を通算してY信用組合の退職給与規程により支給することなどが合意されました。また、本件合併の準備を進めるため、両者の理事により構成される合併協議会が発足しました。
合併協議会の依頼を受けて、A信用組合の職員に係る本件合併後の労働条件について検討した社会保険労務士は、平成14年11月、本件合併後の労働条件に対する職員の同意を取り付けるための同意書案を作成しました。この同意書案には、本件合併時にA信用組合に在職する職員に支給される具体的な退職金額について、本件合併前からY信用組合の職員である者に係る退職金の支給基準に合わせてこれと同一水準とすることを保障する旨が記載されていました。しかし、その後、この点に関してはY信用組合側から問題が提起され、更に検討が続けられました。
平成14年12月19日の合併協議会において、A信用組合の職員に係る本件合併後の退職金の支給基準につき、旧規程の支給基準の一部を変更した新規程の支給基準とすることが承認されました。
上記の変更により、①退職金額の計算の基礎となる給与額(以下「基礎給与額」といいます)につき、旧規程では退職時の本俸の月額とされていたのに対し、新規程では退職時の本俸の月額を2分の1に減じた額とされ、②基礎給与額に乗じられる支給倍数(勤続年数に、定年等の事由による普通退職又は自己都合退職に応じた所定の係数を乗じて得られる数。以下同じ。)につき、旧規程では上限が定められていなかったのに対し、新規程では上限が55.5とされました(以下、上記①及び②の退職金の支給基準の変更を「本件基準変更」といいます。)。
一方、旧規程では、全国信用組合厚生年金規約に定める加算年金又は加算一時金の給付を受ける者につき、退職金総額(基礎給与額に支給倍数を乗じて得られる金額)から年金現価相当額又は一時金額(以下「厚生年金給付額」といいます。)を控除して支給するものとされていました(以下、このような控除による支給の方式を「内枠方式」といいます。)ところ、Y信用組合の従前からの職員に係る支給基準では内枠方式は採用されていなかったにもかかわらず、新規程では、旧規程の内枠方式が維持されました。また、A信用組合が加入していた企業年金保険が本件合併時に解約されることにより職員に還付される一時金の金額(以下「企業年金還付額」といいます。)についても、退職金総額から控除するものとされました(これに対し、Y信用組合においては、企業年金保険に加入していませんでした)。
このように、本件基準変更後の新規程の支給基準の内容は、退職金総額を従前の2分の1以下とする一方で、内枠方式については従前のとおりとして退職金総額から厚生年金給付額を控除し、更に企業年金還付額も控除するというものであり、これらの結果として、新規程により支給される退職金額は、旧規程により支給される退職金額と比べて著しく低いものとなりました。
平成14年12月13日にA信用組合で開催された職員説明会では、同組合の常務理事が、前記の同意書案を各職員に配付した上、上記のような本件基準変更後の退職金額の計算方法について説明しました。
また、上記常務理事は、上記説明会の後、XらのうちA信用組合の当時の管理職員であった者8名(以下「管理職Xら」という。)に対し、自ら作成した退職金一覧表(以下「本件退職金一覧表」という。)を個別に示し、希望者にはその写しを交付しました。本件退職金一覧表は、本件合併時に準備されるべき退職金の引当金額の算出を目的として作成されたもので、ここに記載された引当金額は、本件基準変更後の退職金額の計算方法に基づき、平成14年12月末日現在の退職金額を、普通退職であることを前提として算出したものでした。
平成14年12月20日、A信用組合の常務理事や監事らは、管理職Xらを含む20名の管理職員に対し、同日付けの同意書(以下「本件同意書」といいます。)を示し、これに同意しないと本件合併を実現することができないなどと告げて本件同意書への署名押印を求め、上記の管理職員全員がこれに応じて署名押印をしました。本件同意書には、前記の合併協議会において承認された本件基準変更の内容及び新規程の支給基準の概要が記載されるとともに、本件合併後の労働条件がそのとおりとなることに同意する旨の文言が記載されていました。
また、同日、A信用組合の代表理事と、その職員組合(以下「本件職員組合」といいます。)の執行委員長は、本件合併後の退職金の支給基準を新規程の支給基準とする旨の記載のある労働協約書(以下「本件労働協約書」といい、これに基づく労働協約を「本件労働協約」といいます。)に署名又は記名をし、押印しました。なお、本件職員組合の規約によれば、その機関として大会及び執行委員会が置かれるとともに、役員として執行委員長等が置かれており、執行委員長は、本件職員組合を代表し、その業務を統括するものとされています。
本件合併は、平成15年1月14日をもってその効力を生じ、同日から新規程が実施されました。
その後、Y信用組合は、平成16年2月16日、更にC県内の三つの信用協同組合と合併し(以下、この合併を「平成16年合併」といいます。)、現在の名称に変更しました。
平成16年合併に先立ち、合併後の労働条件について職員に説明するための「合併に伴う新労働条件の職員説明について(指示書)」と題する文書(以下「本件説明指示書」といいます。)が作成されました。この文書には、①上記合併前の在職期間に係る退職金については、合併前に当該職員に適用されていた退職給与規程に基づいて計算された金額を、合併後に退職するときに支給する、②上記合併後の在職期間に係る退職金については、合併後3年以内をめどに制定される新退職金制度によるものとする、③ただし、上記合併前の在職期間に係る退職金につき、退職金額の計算上、基礎給与額に乗じられる所定の係数が退職理由に応じて異なる場合には、自己都合退職の係数を用いるものとする、④また、上記合併後の在職期間に係る退職金につき、新退職金制度の制定前に自己都合により退職する者についてはこれを支給しないものとする旨が記載されていました(以下、上記③及び④の退職金の支給基準の変更を「平成16年基準変更」といいます。)。
Y信用組合の代表理事は、各支店長及びD地区統括本部の審査部長に対し、本件説明指示書に記載された労働条件の変更の内容を各所属の職員に対し口頭で説明し周知することを指示しました。これを受けて、上記各支店長等は、平成16年2月2日頃、各所属の職員に対し、本件説明指示書のうち労働条件の変更について記載された部分を読み上げ、上記各支店長等及び上記各所属の職員(Xらもこれらに含まれる。)は、「合併に伴う新労働条件の職員説明について(報告書)」と題する文書(以下「本件報告書」という。)中の「新労働条件による就労に同意した者の氏名」欄に、それぞれ署名しました。
Y信用組合は、平成21年4月1日から、平成16年合併後の新退職金制度を定める職員退職金規程(以下「平成21年規程」といいます。)を実施しました。Xらのうち5名は平成21年規程の実施前に退職し、その余の7名はその実施後に退職しました。
平成16年合併前の在職期間に係る退職金については、Xらのいずれについても、本件基準変更及び平成16年基準変更による変更後の支給基準が適用された結果、退職時の本俸の月額を2分の1に減じた額に勤続年数及び自己都合退職の係数を乗じて得られる退職金総額よりも、厚生年金給付額及び企業年金還付額による控除額の方が高くなり、支給される退職金額は0円となりました。また、上記合併後の在職期間に係る退職金については、Xらのうち平成21年規程の実施前に自己都合により退職した者には、平成16年基準変更による変更後の支給基準が適用された結果、退職金が支給されませんでした。
このような状況で、XらがY信用組合に対して退職金の支払いを求める裁判を起こしたところ、就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無についての判断の方法が問題になりました。

これについて、裁判所は、就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきである旨判断しました。

(最高裁判所平成28年2月19日第2小法廷判決)

労働問題に関して、労働条件の不利益変更についての最高裁判所の判例を紹介させていただきました。

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