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【労働問題】【判例・裁判例】使用者の安全配慮義務違反

 
Bは、元勤務先であるY社の反物類を窃取しようと考え、自動車でY社を訪れ、Y社社屋表側壁面に設置されているブザーボタンを押したところ、くぐり戸が開き宿直勤務中の新入社員Aが顔を出しました。Bは、Aに対し、「久しぶりだなあ」と声をかけたので、Aが「やあ先輩ですか」と答えると、Bは、「トイレを貸してくれ」と言ったので、Aがこれを許したところ、Bは、社屋内に入りトイレを使用しまた。その後Bは帰宅しようとしないので、Aが「今日は社長が出張に行っている。もうすぐ帰って来るので早く帰った方がよい。」旨作り事を言って退去を促したところ、Bは反物窃取の目的を遂げず帰って行きまし
た。
しかし、Bは、反物窃取の目的を諦め切れず、同日午後10時45分ころ再びY社社屋を訪れ、ブザーボタンを押して来訪を告げたところ、再びくぐり戸が開いてAが顔を見せました。Bは、Aに対し「社長は帰ったか」と聞いたので、Aが「鞄を置いてすぐ帰った」と答えたところ、Aの許可もないのに社屋内に入り込みました。
Aは、BがY社の反物類を持ち去ることがあるので社屋内に入れないようにしようと考えていましたが、Bが意に反して社屋内に入り込んできたため、Bが話しかけても答えず、「あんたに話すことはない」と冷たい態度を示すとともに暗に退去を促しました。そのためBは、立腹し、Aに1階商品展示場畳敷部分に正座するよう命ずるとともに、正座したAに対して色々と話しかけましたが、Aは、反抗的な態度を変えず、Bに対し、「あんたが来ると反物がなくなる」「あんたが来たことが判ると僕が叱られる」と言いました。
それを聞いたBは、いたく憤激するとともにこれまでの犯行がAにも知られていることを知り、Aがこのまま見逃してくれそうにないので反物類を盗むにはAを殺害するほかはないと考え、突嗟に近くの棚にあつた荷造り用ビニール紐をとり出し、これをAの頸部に巻きつけて両手で絞めあげ、仰向けに引き倒したうえ、社屋内にあつた木製野球バットで顔面を殴打したりしてその場でAを死亡させ、反物類を盗んで自動車で逃走しました。
Y社社屋には夜間の出入口としてくぐり戸が設けられていましたが、この戸又はその近くにはのぞき窓やインターホンはなく、呼出用のブザーボタンのみが設置され、また、防犯ベル等の設備もありませんでした。Y社社屋は、建物としての機能に欠陥はなく、窓、戸は堅牢で錠は整備されており、鉄筋コンクリート造りであるため、戸締りを十分にしている限り、外部からの盗賊等の侵入を防止することは可能でしたが、夜間宿直中に来訪者がブザーボタンを押しても社屋内にいる宿直員はくぐり戸を開けて見ないとそれが誰であるかを確かめることは困難で、くぐり戸を開けた途端その者が強引に社屋内に押し入ってしまうと退去させることが非常に困難でした。また、付近はいわゆるビジネス街であって、夜間は極端に人通りが少なく、本件社屋内で異常事態が発生しても近隣の人や通行人に目撃、感知される可能性はほとんどなく、大声で助けを求めても効果はないような状況にありました。
Y社の取扱商品には、高価な反物、毛皮、宝石類がありましたが、反物は社屋内畳敷きの商品陳列場の棚や畳の上に積み並べられ、毛皮類はハンガーに掛けられて展示されていました。また、高価品については番号等が付せられていましたが、帳簿又は伝票の記載を故意に偽ると紛失又は盗難にあっても判りませんでしたし、社屋内の商品陳列場は広く開放的なものであるため、夜間宿直員が1人となったときなどは、監視の隙に来訪者によって商品を盗まれることもあり得る状況でした。
Y社には宿直制度があり、原則として、平日は午後6時から翌朝午前8時30分まで、土曜は午後6時から翌朝午前9時まで、日曜祝日は午前9時から翌朝午前8時半までと定められ、男子従業員全員が1人宛交替制で実施していました。宿直員の仕事は、夜間の営業、すなわち夜間における小売業者との商談又は小売業者への商品の引渡、電話による受注、運送業者への発送品引渡、帰社した出張社員からの売上金受領、同金員の金庫への収納等があるほか、盗難防止のための戸締り、見回り等、更に火災予防のための見回り等も含まれており、宿直員に割当てられると指定就寝場所である1階商品陳列場の一隅で就寝しなければなりませんでした。
Y社では商品の紛失事故が2度、3度と発生していましたが、その原因を調査しても判明しないため、全従業員に対し、紛失事故がないようにすることや商品持出しを厳正にすることを注意し、夜間の戸締りを厳重にすることを指示しましたが、紛失事故はやみませんでした。Bは、7、8回Y社から反物を窃取するという犯行をくり返しており、宿直員がBの反物窃取を見付けたものの、直属の上司に話したのみで上層部には報告しなかったということもありました。
なお、本件事故発生前Y社に不審な電話がたびたびかかってきており、その中にはBからAに対する電話もあったので、Y社の代表者は、Aに対しBからの用件を尋ねましたが、理由が判然としなかったため、Bとは交際しないよう注意をしたこともありました。
このような状況で、Aの両親であるXらが、Y社に対し宿直員の身体、生命に対する安全配慮義務の違反があったとして損害賠償の支払いを求める裁判を起こしたところ、Y社の安全配慮義務違反の有無が問題になりました。

これについて、裁判所は、会社が、夜間においても、その社屋に高価な反物、毛皮等を多数開放的に陳列保管していながら、右社屋の夜間の出入口にのぞき窓やインターホンを設けていないため、宿直員においてくぐり戸を開けてみなければ来訪者が誰であるかを確かめることが困難であり、そのため来訪者が無理に押し入ることができる状態となり、これを利用して盗賊が侵入し宿直員に危害を加えることのあるのを予見しえたにもかかわらず、のぞき窓、インターホン、防犯チェーン等の盗賊防止のための物的設備を施さず、また、宿直員を新入社員1人としないで適宜増員するなどの措置を講じなかったなど判示のような事実関係がある場合において、1人で宿直を命ぜられた新入社員がその勤務中にくぐり戸から押し入つた盗賊に殺害されたときは、会社は、右事故につき、安全配慮義務に違背したものとして損害賠償責任を負うものというべきである旨判断しました。

(最高裁判所昭和59年4月10日第三小法廷判決)

労働問題に関して、使用者の安全配慮義務違反についての最高裁判所の判例を紹介させていただきました。

なお、労働問題については、仙台の弁護士による労働問題のご相談もご覧ください。