【相続】【判例・裁判例】民法891条5号の遺言書の隠匿に当たらないとされた事例
Aは、二男Y及び妻Bと共に暮らしていましたが、Bと相談の上遺言をすることにしました。そして、昭和42年2月22日、Bの実家の当主C、Aの家の菩提寺の住職及びYを同行して公証人役場に赴き、遺言公正証書の作成を嘱託しました。そこで、公証人は、C及び住職の2人を証人として、「Aは、所有不動産のうち土地80坪を長女Dに、その余の不動産すべてをYに各遺贈し、Cを遺言執行者に指定する。」との趣旨の遺言公正証書を作成しました。Aは、同日、遺言公正証書の正本の交付を受け、Yに保管を託しました。
Aは、昭和50年6月2日に死亡しましたが、その法定相続人は、妻B(昭和51年9月18日死亡)、二男Y、長女D、次女X、五女Eの5名でした。Yは、X及びEにもDと同程度の遺産を取得させようと考え、相続人間の意見の調整をし、同年10月28日、(1)D、X、Eは、各100坪の土地を取得する、(2)DとXは、各一棟の建物を取得する、(3)Yは、その余の遺産すべてを取得する、などを骨子とする遺産分割協議が成立しました。この間、Yは、Eに対しては、遺言公正証書の正本を示してその存在と内容を告げましたが、EはこれをDやXに知らせたりはせず、BもまたD、X、Eに対して遺言公正証書の存在を知らせたことはなく、意見調整の過程で遺留分について触れる者もいませんでした。
その後、遺言公正証書の謄本を入手したXは、Aから遺言公正証書の正本の保管を託されていたYが遺言書の存在と内容を秘匿していたことが相続欠格事由である遺言書の隠匿に当たると主張して、Yに対し、相続回復請求権の行使として、Yの所有名義になっている土地につき持分各4分の1の移転登記手続等を求める裁判を起こしたところ、Yの行為が民法891条5号の遺言書の隠匿に当たるかが問題になりました。
これについて、裁判所は、被相続人Aからその子Yが遺言公正証書の正本の保管を託され、Yは遺産分割協議の成立に至るまで法定相続人の1人である姉に対して遺言書の存在と内容を告げなかったが、Aの妻BはAが公正証書によって遺言をしたことを知っており、Bの実家の当主は証人として遺言書の作成に立ち会った上、遺言執行者の指定を受け、また、Yは遺産分割協議の成立前に法定相続人の1人である妹に対して遺言公正証書の正本を示してその存在と内容を告げたなどの事実関係においては、Yの行為は、民法891条5号にいう遺言書の隠匿に当たらない旨判断しました。
(最高裁判所平成6年12月16日第二小法廷判決)
相続に関して、民法891条5号の遺言書の隠匿に当たらないとされた事例についての最高裁判所の判例を紹介させていただきました。
なお、相続については、仙台の弁護士による相続のご相談もご覧ください。