【交通事故】【判例・裁判例】被害者の自賠法16条1項に基づく請求権と社会保険者の代位による請求権の優劣
Xは、交通事故に遭い、傷害を負いましたが、加害車両は任意保険に加入していませんでした。
Xは、病院に入院し、その間、老人保健法に基づく医療給付として、A市長より合計206万4200円の支払を受けました。老人保健法に基づく医療給付は、市町村長により、原則として、当該市町村の区域内に居住地を有する75歳以上の者で、健康保険法等の医療保険各法の規定による被保険者等に対し行われるものであり、市町村長は、医療給付を行った場合、支給を受けた者が第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得することになっていました。
Xは、本件事故により、上記医療給付を除き、合計337万9541円の損害を被りました。
Xは、自賠責保険会社であるYに対し、自賠法16条1項に基づき、自賠責保険の傷害の保険金額である120万円の支払を求める裁判を起こしたところ、Yは、A市長が、Xに対し医療給付をしたことにより、Xの加害者に対する損害賠償請求権を代位取得したので、それを基礎として、自賠法16条1項に基づきYに対し損害賠償額の支払を請求することができることになったのであるから、自賠責保険の傷害の保険金額である120万円はXとA市長が有する各損害賠償額の割合に応じてあん分される旨の主張をしたため、 被害者の行使する自賠法16条1項に基づく請求権の額と市町村長が老人保健法(平成17年法律第77号による改正前のもの。以下同じ。)41条1項により取得し行使する上記請求権の額の合計額が自動車損害賠償責任保険の保険金額を超える場合に、被害者は市町村長に優先して損害賠償額の支払を受けられるかが問題になりました。
これに対し、裁判所は、交通事故の被害者が、老人保健法25条1項に基づく医療の給付を受けてもなおてん補されない損害について自賠法16条1項に基づく請求権を行使する場合は、他方で、医療の給付を行った市町村長が、老人保健法41条1項により取得した上記請求権を行使し、被害者の上記請求権の額と市町村長が取得した上記請求権の額の合計額が自動車損害賠償責任保険の保険金額を超えるときであっても、被害者は市町村長に優先して自動車損害賠償責任保険の保険会社から上記保険金額の限度で損害賠償額の支払を受けることができる旨判断しました。
(最高裁判所第3小法廷平成20年2月19日判決)
交通事故に関して、被害者の自賠法16条1項に基づく請求権と社会保険者の代位による請求権の優劣についての最高裁判所の判例を紹介させていただきました。
なお、交通事故については、仙台の弁護士による交通事故のご相談もご覧ください。