【交通事故】【判例・裁判例】共同不法行為と過失相殺および自賠責保険金の充当
Y1は、国道の歩道寄りの第一車線を、Y2社の保有する普通乗用自動車(以下「Y車」といいます。)を運転して走行中、第二車線の後方を走行する車両の有無を確認せず、車線変更の合図もしないでハンドルを右に転把し、中央線寄りの第二車線に進路変更しようとしました。Aは、普通乗用自動車(以下「A車」といいます。)を運転してY車の後方で第二車線を進行中であったところ、Y車が第二車線に進路変更をしようとするのを見て、ハンドルを右に転把したため、A車は、中央線を越えて対向車線に進入し、対向車線を走行してきた普通乗用自動車と正面衝突しました。
本件事故により、A車の助手席に同乗していたBは両側頸動脈断裂の傷害を負って死亡し、後部座席に同乗していたX1は頭頂部切創、左手打撲の傷害を負いました。
Aは、走行中に先行車が急に進路を変更することもあり得るから、前方の車両の動静に注意して進行すべき注意義務があるのに、進路の前方注視を怠り、制限速度を約20キロメートル超過してA車を走行させたために本件事故に至ったため、Aの過失割合は35%でした。そして、X1はA及びBの母であって、X1及びBとAとは、身分上、生活関係上一体の関係があったから、Aの右過失は、Yらに対する関係において被害者側の過失としてしん酌すべきものでした。
また、Bにも、本件事故当時、シートベルトを装着していなかった過失があり、右過失が本件事故の損害を拡大させたので、Bの過失割合は、5%でした。
したがって、Yらに対する関係において、Bの損害については40%、X1の損害については35%の過失相殺をするのが相当であり、過失相殺後のBの損害額は3624万2755円、X1の損害額は37万4885円でした。
自動車損害賠償保障法によりA車について締結された自動車損害賠償責任保険契約に基づき、X1とX2(A及びBの父)はBの損害の賠償として3000万円、X1は自己の損害の賠償として29万2860円の支払を受けました(以下、これらの支払額を「本件てん補額」といいます)。
Xらは、Bの両親として、Bの本件事故による損害賠償請求権を相続により2分の1ずつ取得しました。
このような状況で、Xらが、X1はBの相続人及び被害者として、X2はBの相続人として、Yらに対して損害賠償を請求する裁判を起こしました。
Yらは、本件てん補額はYらが支払うべき過失相殺後の賠償額から控除すべきであると主張するのに対し、Xらは、本件てん補額はX1及びBがてん補を受けるべき損害額から控除すべきであって、Yらが賠償すべき損害額から控除すべきではないと主張したことから、1つの交通事故について甲及び乙が連帯して損害賠償責任を負う場合に乙の損害賠償責任についてのみ過失相殺がされて両者の賠償すべき額が異なるときに甲のした損害の一部てん補が乙の賠償すべき額に及ぼす影響が問題になりました。
これについて、裁判所は、1つの交通事故について甲及び乙が被害者丙に対して連帯して損害賠償責任を負う場合において、乙の損害賠償責任についてのみ過失相殺がされ、両者の賠償すべき額が異なるときは、甲がした損害の一部てん補は、てん補額を丙が甲からてん補を受けるべき損害額から控除しその残損害額が乙の賠償すべき額を下回ることにならない限り、乙の賠償すべき額に影響しない旨判断しました。
(最高裁判所平成11年1月29日第三小法廷判決)
交通事故に関して、共同不法行為と過失相殺および自賠責保険金の充当についての最高裁判所の判例を紹介させていただきました。
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